2019年 春合宿B 仙丈ケ岳・甲斐駒ケ岳


2019年 春合宿B 仙丈ケ岳・甲斐駒ケ岳
(仙丈ケ岳3,032m、甲斐駒ケ岳2,966m)
2019年5月2日~4日
天気:晴天
メンバー:ターコCL、ひでSL、のりっく(記)

コースタイム
【1日目】 8:00仙流荘駐車場着→9:55 バス臨時便出発→10:30 歌宿到着(10:40 出発)→
12:30 北沢峠→13:00 長衛小屋テン場到着→14:30 テント設営完了
【2日目】 3:30 起床→5:25 長衛小屋出発→7:15 大滝ノ頭(五合目)→8:30 小仙丈ヶ岳(八合目)→10:00 仙丈ヶ岳(10:40 出発)→11:30 小仙丈ヶ岳→12:20 大滝ノ頭→13:30 長衛小屋着
【3日目】 3:00 起床→5:00 出発→5:50 仙水小屋→6:30 仙水峠→8:30 駒津峰→10:10 甲斐駒ケ岳(10:15出発)→11:30 駒津峰→12:00 双児山→13:45 長衛小屋着→(テン場撤収)→
14:15 長衛小屋出発→16:15 歌宿着・バス最終便乗車→16:55仙流荘駐車場着

南アルプスの女王、仙丈ケ岳。さすが女王と呼ばれるだけあり、その裾広がりの姿は、「登れるものなら登ってみなさいよ」という女王然とした雰囲気を漂わせていた。一方の甲斐駒ケ岳は、山頂付近には残雪が少なく、岩肌が露出しており、峻険で荒々しい男性的な山である。山脈の連なりがダイナミックな北アルプスと異なり、南アルプスは個々に個性を持った山々がポコポコと乱立している―。私の初めての南アルプスはそんな印象であった。
本合宿の行程の核心は3日目であった。甲斐駒ケ岳を登頂した後、遅くとも14時までにはテン場を撤収して出発し、16:15の最終バスに乗らなければ、テン場での延泊を余儀なくされる。結果的に、最終バスの発車30秒前ギリギリでバスに飛び乗ることができたが、朝から息もつけないハードな山行スケジュールだったため、もう少し山行を楽しむ余裕があっても良かったかもしれない。しかし、3日間とも清々しいほどの晴天に恵まれ、3人とも無事に、素晴らしい春山の合宿を終えることができたことが何よりである。

5月2日(木)、初日。5:30小牧コロナを出発し、GW中の渋滞にもはまらず、バスの出発予定時刻10:05よりも2時間も早く仙流荘駐車場に到着した。定員を上回る乗客をカバーすべく、9:55発の臨時便が立てられ、我々はそれで10:30に歌宿に到着した。歩荷してテン場まで2時間林道を登り、テントを張ればこの日の行程は終了。北沢峠を越えた後、長衛小屋に至る分岐を間違えたが、予定取り13:00に長衛小屋のテン場に到着した。
色鮮やかなテントでテン場はそこそこ埋まっていた。この日、特にテン場は強風で、設営中にあわやテントが吹き飛ばされるところだった。ザックをテントの重石にして一旦落ち着けたが、今度は地面の氷雪が固く締まっており、ピッケルを使っても竹ペグを埋めるほどの穴を掘ることができない。竹ペグ作戦は諦め、周囲から大きな石をかき集め、1時間半もかかって、ようやく設営は完了。教科書に載せても恥ずかしくないくらい美しいテントを張ることができた。冬山は雪が潤沢で柔らかく竹ペグも容易に刺すことができるが、春山は竹ペグが使い物にならないこともあることを学んだ。また今回、テン場は、溶けた雪で地面がグズグズだったため、象足に加えサンダルを持っていったことは正解だった。テン場には水場があり、調理用にも飲用にも水には困らなかった。
15時に宴会を開始。エリンギとウインナーのソテーをおつまみにした後、主菜のクリームシチューの調理に着手した。今の時期、食材が傷む心配がないとのことで、食当のターコさんが大き目の野菜も下茹でして下さっており、調理時間の短縮に寄与した。これも春山ならではの下拵えと勉強になった。また、今回の山行は4食とも豪華な食事であった。テン場までの歩荷時間が短いことを考慮してのことで、このように状況に応じてメニューの幅を広げる気遣いも、大変勉強になった。
翌朝より本格的な山行が開始する。核心となる3日目の行程を楽にするため、仙丈ケ岳と甲斐駒ケ岳のいずれを2日目に登るかについて皆で思案した。周囲のテントでの聞き込みも行い、3日目は甲斐駒ケ岳をピストンルートに変更することで短縮可能とし、2日目は予定通り、我々合宿Bの主峰である仙丈ケ岳を攻めることとした。

5月3日(金)、2日目。3:30起床。朝食はターコさんチャレンジメニューの卵と塩サバの雑炊。リピート&盗作確実の美味しさで、チャレンジ大成功であった。予定より約30分遅れて5:25に出発した。
私自身は、12月に冬山装備を揃えたばかりの冬山入門者。1月の冬合宿(初級)を経て、春山はステップアップを試み思い切って中級を選択したが、風邪と怪我により、合宿訓練は2回とも欠場。練習不足のまま本番を迎え、まともに歩けるか不安を抱えながらテン場を後にした。
まずは五合目である大滝ノ頭(2,519m)を目指した。雪は固く締まっており、アイゼンが効いて歩きやすい。そこそこ斜度のある樹林帯が続く。大滝ノ頭を超え樹林帯を抜けると、真っ青な空と南アルプスの山脈とともに、富士山が目に飛び込んできた。雪もまた、土混じりの雪から、徐々に白砂糖のような雪に変わった。稜線に出ると風が吹き付け、ウインドブレーカーを羽織り、小仙丈ケ岳(2,864m)を目指した。頂上の仙丈ケ岳までは、長い急登がいくつか待ち構えている。ゆっくりでもいいから、一定のリズムで歩を進め呼吸を整えて登ることをひでさんに教えていただいた。リズムができると、確かに急登も登りきることができた。八合目の小仙丈ケ岳では風は強さを増し、全員ハードシェルに着替えた。その後、連続する急登を登りきると、仙丈ケ岳が姿を現した。頂上まではあと少し。左右両端が切れ堕ちた稜線(ナイフリッジ)があり、しばし歩みを止めながら南アルプスの絶景に魅入った。10:00仙丈ケ岳登頂。それまで吹いていた強風は、不思議と頂上では弱まり、写真撮影や昼食をゆっくりと楽しむことができた。山頂からは、隣の北岳や鳳凰三山、北西には中央アルプス、北には八ヶ岳を臨むことができた。
事故は下山時に起きやすいため、下りも慎重に歩みを進めた。下山時の途中、急斜面を利用して、ひでさんから滑落停止訓練の指導をしていただいた。滑落し始めたらスピードが出る前にピッケルで止めること、うまく地面に刺さらなかったら何度か刺し直すこと、またアイゼンが地面につくと危険なため、うつ伏せ姿勢では膝を曲げること等、再度ご指導いただいた。
13:30長衛小屋帰還。14時すぎにはきゅうりの浅漬けとともにビールで乾杯した。夕食は豪華に野菜たっぷりのすき焼き。牛肉の甘味と春菊の苦みが舌と胃を潤してくれた。
ひでさんから、令和初山行という記念すべき山行を祝い、「令和ゼリー」のサプライズがあった。女子2人へのサプライズというより、インスタ目的じゃね?とも思ったが、サプライズということにしておく。溶かしたチョコレートでゼリーの上に「令和」を書く作業は思いのほか難易度が高かったが、2度の練習を経て、インスタ映えするキュートな仕上がりになった。
それにしても、ひでさんのパッキング術を一度しっかりと学ばせて頂きたい。52ℓのオスプレイのヴァリアントで2泊3日の冬山山行に臨み、その中に4テン装備の大半と30mロープといった共同装備、必要な救急セットも入っている上、お酒とゼリーなどの嗜好品もザックから出てくるのだ。ドラえもんの異次元ポケットならぬ異次元ザックなのではなかろうか。

5月4日(土)、核心の最終日。5時出発。私は前夜腹痛や神経の高ぶりで、ほとんど眠れなかった上、両足に靴ズレ予備軍を抱えていたため、正直甲斐駒ケ岳を登頂できる自信が全くなかった。この後ろ向きな姿勢のまま朝から山行に臨んだことを深く反省したい。靴ズレについては、先輩から靴下の二重履きをやめるようアドバイスを頂き、加えて絆創膏とテーピングで対策した。
この日は時間との戦いである。ルートは計画書から変更し、出発時点では、長衛小屋と甲斐駒ケ岳のピストンとした。長衛小屋から仙水峠までは緩やかだが、仙水峠から駒津峰までは標高差500mの長い急登を2時間で登らなければならなかった。辛い予感しかしなかった。
仙水小屋までは沢沿いの緩やかな道を進み、仙水峠に近づくとゴロゴロとした岩場が出現した。その後、雪のある道とない道が交互に現れ、何度もアイゼンの付け外しをしなくてはならなかった。アイゼン着脱の判断は本当に難しい…と思った。仙水峠から3分の1ほど進むと、あとは堪忍し、雪のない岩場と土の道をアイゼンのまま進んだ。非常に歩きにくく、駒津峠までは予想した通り、辛い急登だった。だが、天気だけは相変わらず快晴で、前日と異なり風もない。「なんたってここに晴れ女が2人いるもの!」と言った後に、「ここにハゲ男が1人います」とひでさんが自虐的な一言をかぶせた。ちょっと面白かった。
予定では8:00に駒津峠着であったが、予定より30分遅れていた。下山時の所要時間を計算し、10時をタイムリミットに、登頂を諦め引き返すことを決定した。私の体調では、あと1時間半で甲斐駒ケ岳の山頂に到達することは不可能に思われた。もう無理です、と泣き言を発しては、あそこまで行ったら引き返そう、というひでさんの優しい嘘に導かれ、ここで待ってます、と涙を浮かべては、ターコさんがのりっくのペースなら大丈夫よ、絶対にパーティは分かれないわ、と背中を押してくれた。予定より15分遅れて登頂した。頼もしい2人の先輩が頂上に導いて下さったのだと思うと、感動で思わず涙が溢れてきた。「甲斐駒がね、登ってこいっていうから、登ってやったよ」と、ターコさんも満足気であった。
山頂付近の岩場はところどころに雪があり、同じルートで下山するにはザイルが必要との判断であったが、時間がかかりすぎ最終バスに間に合わない。よって山頂からは岩場を通らず雪渓を通るルートを選択した。また、駒津峰から仙水峠の岩場の下山も危険と判断し、駒津峰からは、登りとは異なる双児山ルートを選択した。13:45に長衛小屋に到着し、30分でテン場を撤収し、14:15にテン場を出発した。できる限りのスピードで林道を下り、バス出発16:15の30秒前にバスに乗り込むことができた。この日の歩行距離は26km以上で、11時間ほぼ休みなく歩き通しであった。17時前に仙流荘の駐車場にて下山完了した。

自分の身の丈を上回る山行であったと思うが、先輩方に導かれ、仙丈ケ岳・甲斐駒ケ岳の両方を登頂することができた。また意外なことに、ベテランのお2人にとっても、冬の甲斐駒ケ岳は初登頂だったことが分かり、撤退せず登頂できて本当に良かったと思った。アキレスの男気と聖母マリアの優しさを持つターコさん、愛あるペテン師のひでさん、本当にありがとうございました。

以上

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