赤岳(2,899m)


赤岳(2,899m)
八ヶ岳連峰
自主山行
2017年3月18~19日

【メンバー】
CL:まいこ SL:ゆかりん ターコ まこ ゆい(記)

【コースタイム】
[1日目]
8:35美濃戸P → 10:20美濃戸山荘 → 12:20赤岳鉱泉 → 14:40硫黄岳(途中下山) → 15:15赤岳鉱泉

[2日目]
6:25赤岳鉱泉 → 7:00行者小屋 → 9:40赤岳 → 11:40地蔵尾根?行者小屋 → 14:30美濃戸山荘 → 15:05美濃戸P

「赤岳に登らない?」

仕事帰りのクライミングジムでぼんやり壁を見上げていたら、まいこにそんな話を持ちかけられた。
赤岳は八ヶ岳の最高峰、標高2899mの山だ。

私はゆい。1月に会の冬合宿として登るはずだった赤岳山行が荒天の為に中止になり、不完全燃焼気味な冬を終えようとしていた。
合宿が中止になったのと同じ頃、悪天の冬山で体調を崩したのを切っ掛けに雪山からも足が遠のいていた。
そんな煮え切らない気持ちを埋め合わせるようにジムでクライミングばかりやっていた私にとって、まいこからの誘いはとても魅力的だった。

「実は、テン場で凍えてから雪山がちょっと怖いんだよね。」

「そうなんだ?今回は山小屋を利用してゆったりスケジュールのつもりだよ」

「小屋泊かぁ…。それなら行けるかな。うん。行ってみたい。」

雪山と仲直りをする。そして一度は潰えた冬の目標「赤岳」に挑む。
私にとってそんな2つの意味を持つ赤岳山行が、こんな風にして始まった。

メンバーはゆかりん・ターコ・まこ・私(ゆい)そしてリーダーのまいこ。
気の置けない間柄の5人が集まった女子山行だ。

1泊2日の赤岳山行は、初日の早朝に集合するところからスタートした。
美濃戸の駐車場に車を停め、なだらかな坂道を登りながらまずは赤岳鉱泉を目指す。
久しぶりのアイゼンの感覚を確かめるように雪を踏み、赤岳の雄大な山容を見上げながら歩いた。
好天の中、沢沿いの雪道をいくらか進むと息が弾んでくる頃には赤岳鉱泉が見えてきた。

冬の赤岳鉱泉には、名物の人工氷壁「アイスキャンディー」がある。
実物を見るのが初めてだったが、写真で見ていたよりもずっと大きく、ずっと美しかった。

嬉しい出会いもあった。
同志会の仲間、ゆきむしとアキに出会えたのだ。
二人は一足先に赤岳鉱泉に到着し、アイスキャンディーでアイスクライミングを楽しんでいた。アイスバイルに陽の光を散らしながら、水色に輝く氷壁を登っていく二人の姿は、鱗を光らせ滝を遡る鯉のようだった。

赤岳鉱泉小屋は美しい山小屋だ。
多くの人で賑わうその様子からは、皆に愛されている山小屋であることがひと目で見て取れた。
受付を済ませ、荷物を整理して、初日のメインイベント「硫黄岳」を目指す。
小屋で時間を使いすぎた事もあり遅めのスタートだったが、登れるところまでは登ろうということで歩き始めた。

「登れるところまでは登ろう。」
時間的なリミットを指すはずだったこの言葉は、ほどなくしてその意味を書き換えられることになる。
具合が悪くなってしまった私の為に、予定よりも早い幕引きを迎えてしまったのだ。

標高の変化に弱い自分が悔しかった。
睡眠は足りていたか?栄養は十分に摂ったか?頭を巡る自問自答。
明日の赤岳でもしまた体調を崩したら…。そんな不安が頭を過ぎった。赤岳だけはなんとしても登りたかった。

赤岳鉱泉に下った私達には、たっぷりとした時間が残された。
私は仮眠をとり、残りのメンバーは小屋でビールを調達して一足早い晩酌を始めた。
この晩酌に加われなかったことは残念だったが、代わりに仮眠を取ったことで私の体調は大きく改善した。目覚めてからは具合も良く、食事も十分に摂ることができた。

赤岳鉱泉の夕食は……凄い。いや、物凄い。
しゃぶしゃぶに焼き魚にフルーツに、山小屋の食事であることを忘れてしまう程の豪華さで、山小屋というより旅館の会席を思い起こさせた。
暖かい食事を囲んで尽きぬ話で盛り上がり、お腹も元気も満タンだ。
小屋の中を見て回り、持ち寄ったお酒を口に運びながら笑いっぱなしで消灯時間を迎える。
あぁ、なんて楽しい夜だろう。心地よい疲れに身を委ね、部屋の布団で眠りに落ちた。
ぐっすり。たっぷり。8時間。

2日目の朝がやってきた。十分な休息に力がみなぎるのを感じた。
この日はいよいよ赤岳を目指す。

朝食を済ませ、まずは雪道を30分程歩いて赤岳の登り口がある行者小屋へ移動した。
行者小屋は冬合宿でテントを張るはずだった場所だ。この日も沢山のテントが雪面を彩っていた。
そこに立ち、赤岳を見上げる。感慨深い。身体の奥に闘志が沸き起こるのを感じる。
・・・よし、行くぞ。

この日の赤岳に登る者は多かったが、心配なのは昨晩から崩れ始めた天気だ。
途中、下山中のパーティーと何組もすれ違った。リーダーのまいこがそれらのパーティに声をかけ、情報を集めてくれた。

「風が強くて引き返した」

そんな話を耳にした時は思わず奥歯を噛み締めたが、その後もまいこが積極的に他のパーティから情報を聞き出してくれたおかげで、風が強いのは頂上手前の分岐点付近のごく一部であることがわかってきた。
他にも無事に登頂を果たしたパーティが数多くいることもわかり、山頂を目指す脚に再び力が入る。

この日通った文三郎尾根ルートには急な勾配が多く、息を整えながらゆっくりと登っていった。
不思議と前日感じたような息苦しさは感じなかった。前後を歩く心強いメンバーの存在と、時折雲間から射す光を浴びてキラキラと輝く赤岳の山頂から、何か不思議なエネルギーを貰っているような気持ちがした。

山頂下にある分岐点の風はやはり強かった。しかし少し進むと道は岩陰に入り、風はほとんど吹かなくなった。すごい!本当に情報通りだ!
その時不意に、自分がここに立っているのは多くの人達に支えられた結果なのだと思い至った。私をここまで導いてくれた人達の顔を思い浮かべながら、感謝の気持ちを胸いっぱいに、いよいよ山頂へ臨む──。

赤岳の山頂は美しかった。
曇っていたし景色もあまり見えなかった。けれどもそう感じた。
いったい何が美しかったのか、必死に思考を巡らせるがどうしても上手く言葉にできない。
もしかして、美しかったのは景色ではなくて──……。

「なぜ山に登るのか?」そんな問いに対する答えがなんとなく掴めそうになって、すぐにまたスルスルと指の間を零れ落ちていった。
登山って不思議だ。

3月19日9時40分、雪の赤岳登頂成功。

さあ、街へ帰ろう。

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